この記事は" しむどん Advent Calendar 2017 "13日目の記事です。
シマダくんについて語りたい。
といっても、今回のアドベントカレンダーをつくった嶋田さんではない。
私が今まで出会ってきたシマダくんたちのことだ。
私はこれまでの人生で3人のシマダくんとシマダさんと出会い、別れていった。
彼らが特別なシマダくん(さん)だったわけではない。
彼らがもしイトウくんだったとしても、ヨシダさんだったとしても、私は彼らをイトウくん、あるいはヨシダさんと呼び、友達となり、いつしか疎遠となっただろう。
ただ、彼らの名前がシマダだった。ただそれだけのこと。
それでも、私は今ここで、シマダくんについて語りたい。
たしかに、しむどんと私の出会ってきたシマダくんたちは関係ない。
しかし――いや、だからこそ、新しいシマダさんと出会った今年に、これまでのシマダくんを思い出していきたい。思い出さなければならない。
嶋田さんとの出会いを胸に。
3人のシマダくんを今、私は思い出す。
小学校の嶋田くん
彼のことを、私は下の名前で呼んでいた気がする。
ともかく、彼は嶋田くんだった。島ではなく嶋。今でも覚えている。
嶋田くんと出会ったのは3年生のクラス替えがきっかけだった。
それまでは名前すら知らなかったのに、どういうわけか新しいクラスになってすぐに打ち解けた。
彼は男の子だったが、そんなことは意も介さず――第二次性徴を迎える前の私たちは――毎日のように、放課後になるとお互いのどちらかの家によって遊んでいた。
こんな日常が永遠に続くんだろうな。
そう思っていた。
いま思い返せば、嶋田くんと疎遠になったのは中学に入って間もないころからだったかもしれない。
別に思春期に入ったから、というわけではない。思春期を迎える少し前からそんな予兆があったからだ。
それに嶋田くんとは同じ公立中学校に進んだから離ればなれになったわけでもない。
ただ、彼も私も違うクラスになり、部活も別のところに入った。ただそれだけだった。
それだけのはずなのに、潮が引いていくように彼への興味が――おそらく彼も、私への関心が――薄れていった。
その後、中3に上がったときに彼と同じクラスになったが、そのころはもうクラスメイトの一人に過ぎなかった。
嶋田くんは他人になってしまった。
中学を卒業して、彼も私も全く別の高校に進んだ。
もう彼とは一切連絡を取っていない。今何やってるのか、何も知らない。
今となってはなんで疎遠になったんだろう、と不思議に思う。喧嘩をしたわけでも恋愛が絡んだわけでもない。
でも、それはそれでよかったのかもしれない、とも思っている。
平穏な海を進んで平和な港に錨を下す航海だってときにはある。そして、そんな平穏な航海は決してありふれたものではない。
それを学んだだけでも、まあよかったかな、と(半ば自分をだましたような気分だが)私は微笑んだ。
そういえば、嶋田くんのメールアドレスは一応――誰もがLINEをやってる今だが――携帯に入っている。
ときどき(少し時代遅れの)メールを送ろうかな、と思い立つ。
でも、結局送ることはない。
彼の人生に私がまた立ち入ることができるのかな。
その答えは、もう少し考えていたい。
中学校の島田くん
彼も男の子で、しかし島田と書く方のシマダくんだった。
小学校は違う校区だったが、中学になって一緒になったシマダくんだ。
一学年下の後輩で、同じ部活で知り合った。
島田くんはとても頭の回転が速い。そして先輩にも臆せずものを言う。
そう、的確な正論を的確な場面で的確に表現する。
部活のミーティングで発言するときもその内容一つひとつに説得力があり、しっかり周りを観察しているなと感心してしまう。
でも、それでいていやな奴というわけではない。むしろ皆好印象さえ抱いているはずだ。
彼は相手を傷つけない適切な言い方をわきまえている。だから皆、彼を信頼している。私もシマダくんを信頼している。
島田くんとは仲が悪いわけではないが、そこまで親密というわけでもない。だから彼と立ち入った話はめったにしない。
それでも一度だけ、島田くんが私に的確なツッコミをしてくれたことがある。
みんなでなにかを準備していたときだった。
同学年にかわいい女の子がいた。
彼女はその所作すべてがかわいい。私もいつもかわいい!と言っている。
そんなわけで、そのときも私はつい口がすべってしまった。
『○○ちゃんかわいい~!心がぴょんぴょんしちゃう~』
「__さん、ふつうにキモいです」
島田くんの言葉に私は別に傷ついていない。
むしろ(私が彼女から若干惹かれていたので)的確なツッコミを的確な強さで言ってくれていまでも感謝している。なにより面白かった。笑いは無罪だ。
もうひとつ、彼の言葉で覚えているせりふがある。
全体での練習中に彼が――私の部活では練習中の指摘は自由だった――またこうしたらいいのでは、というアドバイスを言ってくれた。それ自体はいつものことだが、そのときばかりはいささか抽象的な内容で、みな一様に本当かな?と信じ切れずにいた。
そんな雰囲気を読み取ってか、彼は断言した。
「大丈夫です。僕を信じてください」
おおおっ、と歓声が上がる。
かっこいい。かっこよすぎる。何だよ僕を信じてくださいって。そのジャンプの主人公並みの自信どこから湧き出てきたんだ。
この言葉はしばらく、私たちの間で一種の流行語のように皆が言い合った――学生にありがちな現象だ。
私は島田くんのようにかっこいい人間ではない。そんなの目指そうと思ったってなれるわけがない。それは分かってる。
でも、私もいつか、的確な場面で的確に断言したい。
「私を信じてください」と。
高校の嶋田さん
3人目の彼女だけは女子のシマダさんだ。そして島ではなく嶋。
彼女は高校の同級生。1年生のときにクラスが一緒だった。
嶋田さんは……。
一言でいうと、小悪魔。
もっといってしまえばファムファタールという存在かもしれない。
彼女はスタイルがいい。
同性の私でも誘惑されてしまいような妖しいオーラを放っている。
人一倍、見た目も性格も目立つわけでもない。でも、引き寄せられる”何か”がある。
誤解を招いたかもしれないが、「モテていた」わけではない。どちらかというと――いや、むしろ高嶺の花なのかもしれない。
それでも、うわさに聞くかぎりだと
「大学生と仲いいらしいよ」
「部活のOBと一緒にいるとこ前に見たよ」
と、いつも話題を供給してくれる。
でも、違うクラスになった今となってはめったに会わない。彼女に聞きたくても聞くことはない。聞けたとしても答えは返ってこなさそう。
嶋田さん。今は何をやっているんだろう。
私はこれまでの人生で、3人のシマダくんとシマダさんに出会った。
だが、今まで書いてきたとおり、彼らとの間でドラマチックな出来事があったわけでもない。私にとって(あるいは彼らにとって)、シマダくんは(あるいは私は)人生の通過点に過ぎない。
でも、ここで出会ったこと自体、それ自体がドラマかもしれない。
無数の人間が行き交う人間交差点で、タナカくんでもカトウくんでもなくシマダくんと目が合ったこと。
そのこと自体が、私には奇跡のような出来事に思えてならない。
私はこれからも、数えきれないシマダくんやシマダさんと出会い、傷つき、そして別れていくだろう。
それでいい。そうでなければならない。さよならだけが人生なのだから。
それでも、シマダくんたちと一緒にいた時間を思い出すことはできる。
過ぎ去った夏を、私は大切にしたい。
そして、いつまでも忘れずに、心の奥にしまっておこう。
いつまでも。
ありがとう、シマダくん。
※この記事はフィクションです。実在の人物・団体・嶋田健志氏とは一切関係ありません。
参考
↑しむどん。
↑シマダくんの著作。
↑引用しました。
かいたひと:女學生 - mstdn.jp